10.13.2007

ロマニスト 玄 7

玄の仕草は、最初の泥棒コントがまだ続いているようでした。
まるで本職かのように振舞います。

指紋を残さないため、
戸を開けるのも、ドアノブをひねるのも、
いちいちTーシャツを伸ばしてその上から慎重に触っていきます。

腰を低くしてなりきっている姿に、
笑いが止まりません。

いわゆる〝不法侵入″のはずなのに、まるで緊張感がない。  

ブレーカーは室内にありましたが、落ちていなかったようでした。
悩ましい。 

もう一度ボイラー室に戻ります。

ふとドアの内側をみると三十センチくらいの
大きなレバーがあるではないですか!

OFFを指していた。  

「これだ!」  

ONにレバーを持っていくと  
カッカッカッカ ボォッフ!  
ボイラーはまるで生き物のように起きだしました。

確信を得た私たちは風呂場の方へ小走りで行き、蛇口をひねった。  
すばらしい、適温!  

ちょうど日は落ちかけていて、空を濃いオレンジに染めていく。
目の前には入り江があり、その先には大海が広がっていた。

窓という窓を全開にして、
貸切りの半露天風呂状態にしてその湯を頂きます。  

なんて気持ちいいのだろう。  

温まったら建物の外に出て、
程よく冷めたら湯に浸かる。
何度も繰り返しました。

日は完全に落ち、かすかに残光をとどめて名残を惜しんでいました。

辺りはだいぶ暗くなりましたが
私達はここを離れることができずに、
ロウソクをつけてまで居座りました。  

見つかったときのコンセンサスは、
「ひたすら謝るしかね~な~」(裸で)
でした。


玄の素早い動きから始まった
“盗み湯”
この思い出は一生消えることがないでしょう。

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