玄の仕草は、最初の泥棒コントがまだ続いているようでした。
まるで本職かのように振舞います。
指紋を残さないため、
戸を開けるのも、ドアノブをひねるのも、
いちいちTーシャツを伸ばしてその上から慎重に触っていきます。
腰を低くしてなりきっている姿に、
笑いが止まりません。
いわゆる〝不法侵入″のはずなのに、まるで緊張感がない。
ブレーカーは室内にありましたが、落ちていなかったようでした。
悩ましい。
もう一度ボイラー室に戻ります。
ふとドアの内側をみると三十センチくらいの
大きなレバーがあるではないですか!
OFFを指していた。
「これだ!」
ONにレバーを持っていくと
カッカッカッカ ボォッフ!
ボイラーはまるで生き物のように起きだしました。
確信を得た私たちは風呂場の方へ小走りで行き、蛇口をひねった。
すばらしい、適温!
ちょうど日は落ちかけていて、空を濃いオレンジに染めていく。
目の前には入り江があり、その先には大海が広がっていた。
窓という窓を全開にして、
貸切りの半露天風呂状態にしてその湯を頂きます。
なんて気持ちいいのだろう。
温まったら建物の外に出て、
程よく冷めたら湯に浸かる。
何度も繰り返しました。
日は完全に落ち、かすかに残光をとどめて名残を惜しんでいました。
辺りはだいぶ暗くなりましたが
私達はここを離れることができずに、
ロウソクをつけてまで居座りました。
見つかったときのコンセンサスは、
「ひたすら謝るしかね~な~」(裸で)
でした。
玄の素早い動きから始まった
“盗み湯”
この思い出は一生消えることがないでしょう。
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