8.27.2009

寿町ブルース 3

M氏と僕は好奇心に突き動かされ、
ゆっくりと街を探検しました。

鋭利な視線を全身に受けつつ・・・

ある小道では、
こわもての男が門番のように椅子に座っていました。
何だろう?
遠巻きにのぞいてみると、
数件の店で競馬のノミが公然と行われていたのです!

何なんだここは!?

すでに不思議の国のアリス状態・・・
(ここに可愛さは登場人物にも背景にもありませんがw)

日曜日の昼下がり。
ギャンブルと酒が見事に溶けあい、
産出された熱は一帯をバリアのように包み込んでいました。

いきなり入り込む勇気はないまま、
しばらく見入っていました。
しかし明らかに空気の違う目立つ二人が、
じっとしている訳にもいかず、すぐにその場を離れました。

街の中央に近付くと、
さらに重厚感のある雰囲気が感じ取れます。

食べ物の屋台かな?と思いきや、
それはサイコロで偶数奇数を当てるノミ屋台でした。

中央では60歳過ぎの男女が5,6人が、
焚き火を囲んで、酒盛りをしています。

地面に無造作に倒れている紙パックの日本酒、数本。
日本酒の発酵臭と、ゴミの発酵臭が
見事に二重奏を奏でている。

近づくと鋭い一瞥。
警戒心が、遠慮もなくよそ者に刃を向ける。

海外ならいざ知らず。
ここは紛れもなく日本、横浜・・・

一体どうなってんだ。

独立国家か!?
ここだけのルール、
ここだけの秘密・・・


そこは横浜寿町。
日本では山谷、釜ヶ崎と並び
三大寄せ場の一つだと後で知りました。

それ以来、
吸い寄せられたかのように、
寿町に行くようになりました。

それまで自分の世界にはなかったものが、
実はしっかりと存在していた。

教科書にも載っていないし、学校でも習わなかった。
表面の明るい部分だけが
まるで社会全体だと教えられていたのです。

小さかった頃、ホームレスを好奇の目で見ていると、
「見てはいけません!」
と慌てて言われました。

皆が一斉に中流階級になろうとしていた頃、
まるで目に留めるとそうなってしまうかのように
避けられていたのです。

もちろんここの人達はホームレスではありません。
しかし、見られてはいけないとばかりに、
この地区にかたまって存在していました。

高度成長期、バブル期を経て
寿町も世の中と一緒に年を取りました。
しかし新陳代謝が起こらないまま、
街の風景もある時期から止まっていたのです。

人も物も丸ごと風化していく。
何十年分という塵が溜まり、
淀んだ匂いは低層を這っていました。

ドヤ街の住人はまるで世の中に置いていかれたかのよう。

何度か通っているうちに、
積極的に酒盛りに混ざって話を聞いたり、
時にはノミ屋台でサイコロをしたりするようになりました。

しかし常に緊張感がありました。
この街で異質者への不信感はそう簡単に解けるものではない。

ある日、
寿町の住人達の労働や福祉を守ろうと
支援活動をしている男性に出会いました。

彼に連れられて、アルコール中毒患者の更正施設
〝アルク〟を見学したり、
精神的に行き場を失った人達が
立ち寄ることができる教会を訪問させてもらったりして、
さらに日の当たらない世界を知ることとなりました。

ほぼ行政の管理下になかったこの街で、
人に道を踏み外させることはさぞ容易だったことでしょう。

博打、覚せい剤、アルコール。
身を滅ぼすのにこれ等ほど簡単で危ないものはない。
誘惑の甘い水に誘われ、
どれほどの人達がここで身を滅ぼしていったのだろうか。
濃密な物語が、人知れず埋まっているに違いない。


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