4.02.2010

目を向ければ有りうること 5

ピカチュウが仲間に加わったものの、
毎日の声かけはうまくいっていた。

不平不満の電話はよくありましたが、
すぐに問題点を一緒に考え、
自分の行動を変化させたり工夫しながら対処したので、
精神的には安定していたようです。

それまでできなかった
岡山のお祖母ちゃんちへ一人旅も達成し、
高校を卒業したら何をしたいかを考えるようにもなりました。

そんな中での事故。
自転車で通行人にぶつかってしまった。
H君の不注意が原因だったといいます。

通行人は少し怪我を負ったようでした。
ただ、H君は慌て過ぎて、うまく対処できず、
結局警察が呼ばれたというのです・・・

この件がどういう経緯で解決されたのか分かりません。
ただ、ご両親が呼び出されたようでした。

あ~、一年うまくいってたのに!
H君の不注意だろうけど、まったく不運だな~。
これがきっかけで変な風向きにならなければいいけど・・・

H君は人を傷付けたことで憔悴していました。
しかしタイガ、ピカチュウは安定していたので、
頭が真っ白になることはありませんでした。

ん~~~、これからどうしよう。
難しい。

ただ、タイガ、ピカチュウへの声かけによる
安定性は感じ取れていたので、
それは今まで通りしっかりやり、
今はこれ以上何かを起こさないように
慎重に行動することを約束しました。
ここは信じるしかない。

それから3か月近く凪ぎが続きました。

むしろ、その間に、
初めて掃除のバイトをすることになり、
お金を得ることの喜び、
そのお金で何かを買うことの自由を味わい、
すこぶる調子は良かった。

ある日、いつもの週一のセッションでふとH君が
「この前、精神障害者手帳をもらいました」
少し弾んだ声で言いました。

「ん?」
あまりの唐突な話だったのでつい聞き返してしまいました。
まるでボールが後ろから飛んできたかのよう。
ショックが全身に駆け巡りました。

H君はその意味を十分に理解していないのか?
いや、これまでのやり取りなら意味を理解できるはず!

そんな僕の葛藤もよそに、
H君はその手帳がもらえることによって受けるサービスを、
明るい声で話してきます。

H君が精神障害者?

内容は詳しくは分かりません。
おそらく発達障害ということなのでしょう。

ただ、僕に映っているH君は勉強をしないだけで、
いつかは漢字が書けるかもしれないし、
数学も分かるだろうと思っていた。

現にマンガはよく読むし、
朝のテレビの内容や誰かの意見を
いかにも自分の発言として生意気に言うし、
誰だか、高校まで漢字読み書きできなかった人が、
大学受験して先生になったなんて話もあったし、
僕はただH君の成長が普通より遅いだけなのだと信じていた。

理解できているし、
ゆっくり聞けば、自分の思い、感情、
自分なりの意見を言うことは普通にできる。

なのになぜ?

手帳をもらうのが悪くて、
もらわないのが良いと言っているわけではありません。

ただ、H君の性格上、
一たびその枠の中に入ると、これ以上勉強したり、
自分の能力を伸ばすことが
疎かになってしまうのではないかと思ったのです。

もちろんこれはご両親の判断でしょう。

何度か警察に呼ばれ、
今後突発的に何かが起こるかもしれない。
そんな不安は常にある。

僕がどう思おうとも、
ご両親の心配は計り知れない。

ただ、突発的な行動の裏には、
自分の話が聞いてもらえないとか、
何らかの動機があったことも確かなのです。

しかも思春期の自己成長過程での出来事。

他にどうにかならなかったのか?

勝手ながら携わった一者として
強烈なジレンマにさらされました。

                     つづく

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