4.03.2010

目を向ければ有りうること 6

知人のM君のことを思い出しました。

自閉症のM君は自宅へ帰る途中、
自分の家を勘違いしてしまい、
他人の家のドアを自分の鍵で何度も開けようとしていて、
警察沙汰になったとのこと。

詳細は知りませんが、
住人が怖くなって通報したのでしょう。

確かに普通の恰好している人間が、
自分の家に入ろうとしているのを見かけたら、
どうするだろう?

急にどなり散らすことはないにしても、
警戒心から強張った物言いになるに違いない。

しかし、もし自閉症の人との関わりがあるのなら、
その後のやりとりで「もしかしたら!」
と気づく可能性もあります。

知らなければ、他人が家に乗り込んでくる恐怖に襲われる。

その後、障害者であることを知り、承服するのが
上記のような問題が起きたときの反応でしょうか。
残念ながら・・・

H君の話を聞いたときにM君のことが思い起こされました。
ご両親も色々悩んだ末のことでしょう。
しかし僕のジレンマは中々落とし所が見つかりませんでした。

例えばH君とM君。
M君は双方向的にコミュニケーションをとり続けるのは難しく、
自分だけの世界に入り込むことが多い。
ゆっくりだけど理解する・・・
しかし一般的な仕事をするのは難しいでしょう。
H君は双方向的に会話をし、その場で理解ができる。
単純作業だけれども仕事ができる・・・

共通しているのは成長の歩みがゆっくりだということですが、
H君は勉強をしないだけで、勉強したらどうなるのか?
という見えない部分が多く残されています。

一体そこの線引きを誰がするのだろう?
こっちは障害者でこっちは違いますと
明確な線引きがあるのだろうか?

H君にとって本当にいいことなのだろうか?
深く、重く僕の心に響きます。

さて、H君はちょうど4年生(定時制なので)の夏前に
精神障害者手帳をもらいました。

その後、アルバイトに励み、
タイガもピカチュウも暴れることなく、
自分の貯めたお金でおばあちゃんちに行き、
精神状態どうのというよりも、
楽しく生き生きと生活していました。
セッションの声も弾んでいる。

いよいよ卒業が近付いてくると
H君は就職したいと言ってきました。

以前から就職について
H君は構想を膨らませていたのですが、
H君の構想はいつでも強気だったので、
僕は「それだったら漢字勉強しなきゃね」
と返すのが常でした。

しかしH君は勉強はしません。
一ヶ月くらいすると、また違う構想が浮かんでくる。
そんなやり取りが続いていました。

本当に今後どうなるのだろうか?

実際に卒業も見え始めてきて、
学校でも就職活動が盛んになってきます。

そんな僕の心配も杞憂に終わりました。
実はウルトラCがあった。
H君は企業が採用する際の障害者枠に入れるのです!

少し手こずったようですが、
スーツを着て面接を受け、
卒業を控えた三月、
ギリギリで就職することになりました。

その日、
弾んだ声で電話がありました。

「おめでとう。
これからがスタートだよ」

月並みなことをいい、
高校卒業と共に僕からも卒業しようと切り出しました。

タイガ、ピカチュウには20歳まで声かけすることが
約束なので、それは自分でやればいい。
たまに何かあればその時電話くれればいい。

いよいよ卒業となり、
僕との三年間のセッションもとりあえず幕を閉じました。

この三年間、
想像もつかないたくさんのハプニング起こりましたが、
H君はゆっくりとですが成長したと思います。
しかも思春期という大切なステップを
ある程度は踏み越えた。

ただ、H君にも言ったように、
これからも色々な壁が待ち受けているでしょう。
これまでの人間関係では我がままが通せたことも、
社会では通用しないのですから。

「一人暮らしをします」

当面の目標を聞いたところ、
こんな返事が返って来ました。

楽しい人生を送ってほしい。
そう願ってやみません---


さてさて、僕のジレンマはそう簡単に解決されません。

H君が無事就職できたことはこの上なく嬉しい。
ただ、それが障害者の枠を使ってのことだったので、
もし認定を受けなかったことを考えると、
漢字の読み書きのできない現状、
就職は難しかったかもしれない。

この線引きは難しい問題です。

例えばH君よりも発達が緩やかだけれども、
特にハプニングを起こさない子がいるとします。
こんな子はどうなるのか?

さらに障害者になるかどうか、
親の意向が占めると思うので、
そうなってほしくないと、
認定が下りるケースでも両親が拒む場合があるでしょう。

H君より発達が少し早く、
よりハプニングを起こしてしまうケースは?

考えるときりがない・・・

現実として言えるのは
境界がはっきりとしないだけに
そこにまたがる人たちがいるということです。

同じ状況でもH君のように就職できれば、
認定を受けないことで就職できない人もいる。

そこに現代の影があるような気がしてなりません。

その境を埋めていくのは僕らの役目でしょ!

そんな盛り土的な役割をするのが
周囲のケアや思いやり。

まずは目を向けてみましょう。
このようにごく普通にある話なのですから。

                         おわり

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